ホーチミン市の都市開発ビジョンと「多中心型(多極型)メガシティ」の構想についてまとめました。
目次
長期的な都市開発ビジョン
ホーチミン市は、2060年までに世界の主要都市と同等の発展水準を持つ「グローバル都市」になることを目指しています。
経済・金融のハブ
アジアにおける経済、金融、サービスの中心地となり、ベトナム南部および全国の発展を牽引する「成長極」としての役割を担います。
成長極(Growth Pole)とは
経済学や地域開発政策において、経済成長を牽引する特定の地域、産業、あるいは都市を指す概念です。
国際的な地位
2030年までに世界の「住みやすい都市100」に入り、2045年までにはアジアの経済・観光・医療等の中核都市として、「世界最高の都市100(Worlds Best Cities)」にランクインすることを目標としています。
住みやすい都市100とは
一般的に世界や日本の都市を、生活環境、治安、医療、教育、インフラなどの指標で評価し、ランキング化したものです。世界ではエコノミスト誌(EIU)の調査が有名です。
EIUランキングは、治安、医療、文化・環境、教育、インフラの5分野で評価されます。
世界最高の都市100(Worlds Best Cities)とは
リサーチ会社による経済、環境、居住、文化などを総合的に評価したランキングです。最新の2026年版(2025年11月発表)では、ニューヨーク、ロンドン、パリがトップ3で、東京は4位、大阪は23位にランクインするなど、都市の魅力や国際的な存在感を示す指標として広く知られています。
スマート・創造都市
知識経済とハイテク産業を基盤とし、高度な相互作用と創造性を促進する都市空間を形成します。
多中心型(多極型)メガシティ・モデル
従来の単一中心型の構造から脱却し、複数の拠点が連携する「多中心型都市モデル」への転換を本格化させています。
6つの分区域(サブエリア)
具体的な6つの分区域:
中心都市分区域
環状道路2号線の内側、およびケンドイ運河(Kênh Đôi)・ケンテー運河(Kênh Tẻ)の北側に位置する地域(旧1区を中心としたエリア)
東部分区域(トゥードゥック都市分区域)
旧トゥードゥック市全域をさし、将来的にトゥードゥック都市分区域として発展予定
西部分区域(ビンチャイン都市分区域)
中心都市分区域の北側地域および一部南側地域。旧ビンチャイン県のカンユオック川(Cần Giuộc)西側区域と、ビンタン区の国道1号線西側区域を含む。将来的にビンチャイン都市分区域として発展予定。
北部分区域(クチ・ホクモン都市分区域)
旧クチ県、旧ホクモン県および旧2区の国道1号線北側区域を含む。将来的にクチ・ホクモン都市分区域として発展予定。
南部分区域(7区・ニャーベー都市分区域)
旧8区ケンドイ運河南側区域とビンチャイン県のカンユオック川東側区域、旧7区および旧ニャーベー県を含む。 将来的に7区・ニャーベー都市分区域として発展予定。
南東部分区域(カンゾー都市分区域)
旧カンゾー県全域。将来的にカンゾー都市分区域として発展予定。
広域メガシティ
コアゾーン(都心部)
金融、サービス、イノベーションの中枢
ビンズオン地域
ハイテク産業の集積地。
バリア=ブンタウ地域
海洋経済、港湾、エネルギーの玄関口
コンダオ特区
持続可能なエコツーリズム・リゾートの拠点
主要な開発拠点と「都市の中の都市」
多中心モデルの核となる特定の地域では、大規模な再開発が進んでいます。
東部分区域(トゥードゥック都市分区域)
旧トゥードゥック市は、2025年にホーチミン市に再編成されていますが。2021年に設立されたベトナム初の「中央直轄市内の都市」でした。知識経済と第4次産業革命の中核を担います。トゥーティエム(国際金融センター)、チュオン・トー(未来型都市モデル)、ロン・フオック(ハイテク生産・教育)の3つのセンターを中心に構成されます。
トゥーティエム新都市区
旧1区の金融機能を補完・移転する「多目的中央ビジネス地区」として、上海の浦東新区や深圳のような世界的な都市を目指して開発されています。
ニャーロン港地区
歴史的な港湾一帯をウォーターフロントとして再開発し、都心コアゾーンの魅力を向上させます。
公共交通指向型開発(TOD)の導入
深刻な交通渋滞や洪水問題を解決するため、「TOD(公共交通指向型開発)」モデルを都市再編の鍵としています。
メトロ(都市鉄道)網の整備
2024年に開業した1号線を皮切りに、2060年までに12路線(約510km)の建設を計画しています。
3段階の開発スケジュール
- 第1段階(2025〜2030年): すでに開業した1号線に加え、2号線の建設や、ロンタイン方面への延伸に注力します。
- 第2段階(2030〜2045年): 3号線、4号線、6号線を整備し、都心部の利便性を飛躍的に向上させます。
- 第3段階(2045年以降): 5号線や7〜10号線を順次整備し、都市鉄道網をほぼ完全に完成させます。
メトロ(都市鉄道)路線の詳細
現時点で計画されている主要なメトロ路線と、そのルート・駅数の情報は以下の通りです。
| 路線番号 | 路線名 | 主要なルート(起点・終点) | 駅数 | 状況 |
|---|---|---|---|---|
| 1号線 | サイゴン線 | ベンタイン (1区) ~ スオイティエン (トゥドゥック市) | 14駅 | 開業済み |
| 2号線 | バクェオ線 | トゥーティエム (トゥドゥック市) ~ 北西市街地 (クチ県) | 42駅 | 工事中 |
| 3A号線 | タンキエン線 | ベンタイン (1区) ~ タンキエン (ビンチャイン県) | 17駅 | 計画中 |
| 3B号線 | ティンゲ線 | コンホア交差点 (3区) ~ Hiep Binh Phuoc (トゥドゥック市) | 11駅 | 計画中 |
| 4号線 | ゴーヴァップ線 | タインスアン (12区) ~ ヒエップフオック (ニャベ県) | 32駅 | 計画中 |
| 4B号線 | タンソンニャット線 | ザーディン公園 (ゴーヴァップ区) ~ Lăng Cha Cả (タンビン区) | 3駅 | 計画中 |
| 4B-1号線 | タンソンニャット線 | Hoàng văn Thụ (タンビン区) ~ タンソンニャット国際空港 | 2駅 | 計画中 |
| 5号線 | カンジュオク線 | サイゴン橋 (ビンタン区) ~ 新カンジュオク駅 (ビンチャイン県) | 22駅 | 計画中 |
| 6号線 | ダムセン線 | Phú Lâm (6区) ~ バクェオ (タンビン区) | 7駅 | 計画中 |
※2045年以降の第3段階では、これらに加えて7号線、8号線、9号線、10号線などの整備が計画されています。
主要なハブ駅
- ベンタイン駅 (1区): 1号線、2号線、3A号線、4号線が乗り入れる最大の交通要衝です。
- バクェオ(Bà Quẹo)駅 (タンビン区): 2号線と6号線の接続点となります。
- 新東部バスターミナル (9区/トゥドゥック市): 1号線の終点であり、地方への高速バス網やトラム1号線と接続する物流・交通の拠点です。
路面電車(トラム)およびモノレール
メトロを補完する大容量公共交通として、路面電車(トラム)およびモノレールの3路線の計画も含まれています。
段階的なTOD展開
2025年から3段階に分けて、メトロ駅周辺に商業・サービス・住宅を集約し、利便性の高いコンパクトシティを実現します。
社会住宅の義務化
TODエリアでは、低・中所得者向けの社会住宅供給を義務付け、包摂的な都市設計を目指します。
戦略的な発展回廊とインフラの「超接続」
都市の「骨格」として、複数の発展回廊を設定し、国内外との接続性を強化します。
サイゴン川沿い発展回廊
川沿いの空間を都市の「フロント」として位置づけ、公共公園、自転車道、大容量公共交通を整備します。
沿岸経済発展回廊
カンゾーの国際中継港や観光都市、マングローブ生物圏保護区などを結び、海洋経済を促進します。
地域連携
環状道路(2号、3号、4号)の閉鎖や、ロンタイン国際空港との接続により、東南部地域全体の物流ハブを形成します。
環境適応とスマートシティ化
急速な都市化に伴う社会課題に対し、デジタル技術と環境対策を統合します。
スマートシティ建設
インテリジェントオペレーションセンター(IOC)や統合緊急対応センターを設置し、顔認証、交通事故対応、治安維持、洪水制御などをデジタル管理します
気候変動への適応
洪水リスクが深刻化する中、排水インフラの整備や、湿地・生態系の多様な価値を保存しつつ都市空間を拡大する戦略をとっています。
その他
超接続メガシティ
ホーチミン市は周辺省との合併・連携により面積約6,700km²、人口1,400万人規模の「地域級メガシティ」を目指しており、2035年までに総延長355kmの都市鉄道を運行開始する計画を掲げています。
経済回廊の形成
国道1号線やアジア横断道路を通じ、ドンナイやタイニンを結ぶ「東西回廊」などの戦略的発展回廊の構築が進められています。
